流動性プールとAMM: 板がないのに価格が決まる仕組み
株式市場には買い注文と売り注文が並ぶ板があります。しかしUniswapのような分散型取引所(DEX)に板はありません。価格を決めているのは流動性プールと**AMM(自動マーケットメイカー)**という仕組みです。DeFiを理解するうえで、ここだけは避けて通れません。
流動性プール: 2つの資産が入った金庫
プールは2つの資産をペアで保管するスマートコントラクトです。たとえばETH/USDCプールにはETHとUSDCが一緒に入っています。
- 資産を入れる人を**流動性提供者(LP)**と呼びます。
- 交換したい人は、片方の資産をプールに入れ、もう片方を引き出します。
- その対価として手数料(通常0.05〜0.3%)を支払い、手数料はLPが持ち分に応じて分け合います。
つまりDEXでの取引相手は人ではなく、プールです。
x*y=k: 価格を決める数式
最も基本的なAMMは、プール内の2資産の数量の積を一定に保ちます。
ETHの数量 × USDCの数量 = k(一定)
プールにETHが100枚、USDCが30万枚あるとすると、kは3,000万。暗黙の価格は1 ETH = 3,000 USDCです。
誰かがETHを10枚買うと、プールのETHは90枚になります。kを保つにはUSDCが約33.3万枚必要なので、買い手は10枚のETHに約3.3万USDCを支払ったことになり、平均単価は3,333 USDCに上がります。買うほど高くなり、売るほど安くなる動きが、数式に組み込まれているのです。
ここから実践的な概念が2つ生まれます。
- スリッページ: プールの規模に対して注文が大きいほど、約定単価は悪化します。プールが深いほどスリッページは小さくなります。
- アービトラージ: プール価格が市場価格からずれると、裁定取引がその差を埋め、プール価格を市場に引き戻します。AMMが相場を追随できる原動力です。
LPの収益とインパーマネントロス
LPの損益は「手数料収入 − インパーマネントロス」です。インパーマネントロス(IL)とは、プールに入れた2資産の価格比が変わったとき、単に保有していた場合より価値が目減りする現象です。
数字で見ましょう。1 ETH = 3,000 USDCのとき、ETH 1枚と3,000 USDC(合計6,000ドル相当)を預けたとします。
- ETHが2倍の6,000 USDCになると、数式上、自分の取り分は約0.707 ETH + 4,243 USDC、およそ8,485ドルになります。
- 何もせず保有していれば、1 ETH + 3,000 USDC = 9,000ドルでした。
- 差額の約515ドル(5.7%)がインパーマネントロスです。
価格比が元に戻ればこの損失は消えます。だから「インパーマネント(非永続的)」と呼ばれます。しかし一方向に動いたまま固定されれば、損失も固定されます。**手数料収入がILを上回って初めてLPは儲かる。**流動性提供の本質はこの不等式に尽きます。
2026年のプール: 集中流動性が標準に
現在の主要DEXでは、LPが特定の価格帯にだけ流動性を置く集中流動性方式が標準です。資本効率は大幅に上がりますが、価格が指定レンジを外れると手数料は入らず、ILはより鋭くなります。初心者は、価格比がほぼ動かないステーブルコイン同士のプール(USDC/USDTなど)で仕組みに慣れるのが安全です。
まとめ
- DEXの取引相手は板ではなく流動性プール。
- 価格はx*y=k系の数式とアービトラージの合作で決まる。
- LPの利益は手数料からILを引いた残り。この計算がまだできないなら、流動性提供はまだ早い、ということです。